仙台地方裁判所 昭和52年(行ウ)2号 判決 1985年9月25日
原告
牛来充
原告
浅野晋平
右原告ら訴訟代理人弁護士
高橋治
同
青木正芳
同
小野寺照東
同
佐藤正明
同
高橋輝雄
同
石神均
同
増田祥
同
山田忠行
同
増田隆男
被告
仙台管区気象台長 山川宜男
被告
人事院
右代表者総裁
内海倫
右被告ら指定代理人
阿部則之
同
壱岐隆彦
右被告仙台管区気象台長指定代理人
鮎澤茂久
同
篠原宣夫
同
小林久雄
被告人事院指定代理人
菅原直紀
同
菓子野廣
同
沢田拓治
主文
原告らの各請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一申立
一 請求の趣旨
1 被告仙台管区気象台長が、昭和四六年一〇月二日付で原告らに対してなした各懲戒処分(戒告)を、いずれも取消す。
2 被告人事院が原告らに対して昭和五一年一〇月七日付でなした請求棄却の判定(人事院指令一三―四五)を、いずれも取消す。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二主張
一 請求原因
1 当事者
原告らはいずれも仙台管区気象台に在籍する国家公務員(運輸技官)である。
気象庁の職員によって全気象労働組合(以下「全気象」という。)が結成されているが昭和四六年七月当時、原告牛来は全気象東北支部書記長、原告浅野は全気象東北支部仙台分会長の地位にあったものである。
2 懲戒処分の存在
被告仙台管区気象台長は、昭和四六年一〇月二日付で原告らをそれぞれ戒告に処する旨の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を発令した。
本件処分の理由は、次のとおりである。
原告らは全気象東北支部仙台分会が、昭和四六年七月一五日仙台管区気象台玄関前において、賃金の改善等を要求目的として行った勤務時間内にくいこむ職場集会(以下「本件職場集会」という。)に参加し、原告牛来は全気象東北支部書記長として、原告浅野は同仙台分会長として参加し、主たる役割を果したものであり、国家公務員法(以下「国公法」と略称する。)九八条二項に違反する。
3 人事院判定の存在
原告らは本件懲戒処分が違法不当であるとして、被告人事院に対し不利益処分審査請求をなしたが(昭和四六年第一八三号等併合事案)、被告人事院は、昭和五一年一〇月七日付人事院指令一三―四五で、原告らの右審査請求を棄却する旨の判定(以下「本件判定」という。)をなし、右判定書は同年一一月八日以降原告らにそれぞれ到達した。
4 本件懲戒処分の違法性
本件懲戒処分は違法である。
5 本件判定の違法性
(一) 本件判定は迅速に判定を行うとの原則に違反している。
(1) 本件懲戒処分から判定までの経過は次のとおりである。
昭和四六年七月一五日 本件統一スト
昭和四六年一〇月二日 本件懲戒処分
昭和四六年 審査請求
昭和四七年一〇月二四日から二七日まで 第一回公開口頭審査
昭和四八年七月三日から六日まで 第二回公開口頭審査
昭和四八年二月 請求者最終陳述書提出
昭和五一年一〇月七日 本件判定
(2) 本件の公平審理において主たる争点の一つが公務員労働者の労働基本権の制限、禁止が合憲か否かであったことを考慮しても、審査請求から判定まで約五年、最終陳述書提出から判定まで約三年という極めて長時間を要していることは、公平審理は迅速になすべきであるとする国公法、人事院規則の各規定に違反していることは明らかであり、違法である。
(二) 原告らの本件処分の対象となった行為は、昭和四六年七月一五日になした勤務時間にくいこむ本件職場集会に参加し、主たる役割を果したというものである。
ところで、公務員労働者の労働基本権を制限する諸規定の合憲、違憲をめぐる最高裁判所の判例は幾度か変遷したが、原告らの行為時すなわち昭和四六年七月一五日当時は最高裁昭和四四年四月二日大法廷判決(都教組事件)及び同大法廷判決(全司法仙台事件)が存在し、公務員労働者の団体行動の準則としての意義を有していた。
原告らは、昭和四六年七月一五日国公共闘の統一行動に参加したが、その当時は右最高裁判決に従って行動すれば刑事罰は勿論国公法による不利益処分が課せられることはないと信じていたのであり、かつ原告らがそのように信じ、期待することは十分の根拠があったからであるから、このような原告らを行為後になされた最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決(全農林警職法事件)に基づいて判断し、原処分を承認することは、原告らの前記判断と期待を裏切るものであり、違法である。
よって本件懲戒処分及び本件判定の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
1 1ないし3項は認める。
2 4項は争う。
3 5項について
(一) 本件判定が迅速になされなかったとの主張は争う。
審査請求人は相当期間を経てもなお判定がないときは、判定をまつことなく直接処分の取消を求めて裁判所に出訴することができ(行訴法八条二項)、判定遅延による審査請求人の不利益救済の途が確保されているのであるから、たとえ人事院が正当な理由もなく判定までに長期間を費やしたとしても、その故をもって判定自体を違法とすべきものではない。
(二) 都教組事件及び全司法仙台事件の最高裁の判決は、公務員の争議行為と刑事免責との関係についての判断にかかわるものであって、懲戒処分との関係にかかわるものではなく、また、公務員の団体行動の準則を示したなどというものでもないのであるから、原告らの主張は、その前提を欠いて失当であるし、そもそも人事院が原処分の適否を判断するに際し行った原告らの行為に関する認定評価の誤りは、裁決固有の瑕疵といい得べくもないのであるから、右原告ら主張をもって本件判定の取消事由とすることは許されない。
三 抗弁
本件懲戒処分の事由である原告らの行為は、日本国家公務員労働組合共闘会議(以下単に「国公共闘」という。)の昭和四六年春闘統一行動に参加した、全気象が、敢行した全国的規模のストライキの一環として、全気象東北支部仙台分会が行った勤務時間にくい込む職場集会に関し実行されたものである。以下、本件職場集会に至るまでの経過、原告らの行為とこれに対する法令の適用、原告ら主張に対する反論を述べる。
1 全気象の春闘方針の策定等について
国公共闘は昭和四六年四月五日の第一〇回評議員会において、国公共闘七一年度統一賃金要求の最終決定をし、同月二〇日第一二回評議員会において、「ストライキを軸とする七月闘争にむけてのたたかいの計画」として、七月中旬に予定するストライキ闘争に向けての行動計画等を樹立し、さらに五月二七日の臨時拡大評議員会において、「七月闘争の戦術及びスト目標の決定ととりくみの強化について」を策定、七月統一ストライキの実施日は、七月中旬の公務員共闘第二波統一ストライキ行動日とする、国公共闘の統一戦術は、始業時から二九分以内の全組合員参加の職場集会実施を基本とすることなどを決定し、各単位労組に対し右方針にそって必要な指示、指導、とりくみを強めるべきことを指示し、七月一日の評議員会で七月一五日右職場集会を既定方針どおり実施することを確認した。全気象は、右国公共闘の春闘方針に従い、気象庁長官に対し、同年四月五日付「統一賃金要求書」を提出し、基本賃金を平均一万八〇〇〇円引き上げることなどの要求を行う一方、勤務時間内くい込み職場集会敢行の準備をすすめ、同年六月一四日から一九日にかけて「七月ストライキ態勢確立のための一票投票」を実施したのにつづき、同月二三日から二四日にかけて全気象支部代表者会議を開催し、七月一五日始業時から勤務時間に二九分くい込む早朝職場集会を行うなどの戦術方針を確認決定するとともに、そのころ指令第七一―一を発出し、各支部、各分会が着実にこの職場集会をやりぬくことを指示し、さらに七月一四日指令第七一―二を発出して、くい込み時間を二九分とする職場集会決行を各級機関に対し指示した。
2 全気象東北支部(以下単に「東北支部」という。)は昭和四六年四月、東北支部一三回定期大会を開催し、七一年度統一賃金要求を実現させるため、ストライキで闘うとの闘争方針を決定し、同月二八日仙台管区気象台長に対し統一賃金要求書を提出する一方、そのころ傘下各分会に対しても同様の措置に出るよう指示実行させ、五月二〇日の公務員共闘統一行動日には、七月実施予定の勤務時間にくい込む職場集会開催の体制づくりを目指して、東北支部傘下の仙台分会を含む一六分会に早朝時間外集会を実施させたのにつづき、六月五日東北支部分会代表者会議を開催して、右集会開催の体制の確立強化についての具体的討議を行い意志統一をはかった。そして、六月上旬から七月上旬にかけて仙台分会を含む傘下各分会に対して勤務時間にくい込む職場集会参加を呼びかけるオルグ活動を行ったり、その間六月一四日から一九日にかけて傘下各分会ごとにいわゆる一票投票を実施し、東北支部組合員の約六四パーセント、仙台分会組合員の約六六パーセントの賛同を得、その後も引き続き組合員に対し強力に右参加を呼びかけたうえ、七月五日から八日にかけていわゆる職場集会参加署名運動を行った。そのほか、かねてから支部機関誌「風林火山」をはじめとする各種組合関係ビラを支部組合員に配布し、七・一五職場集会の成功を訴え、七月に入ってからは職場集会の前日の七月一四日まで連日のようにその発行配布につとめ、七・一五職場集会敢行にむけて数々の情宣活動を行った。
前記のような取り組みを経て東北支部は、同月一四日全気象中央執行委員会から七・一五最終指令(七一―二)を受けて、傘下各分会にかねて予定のとおり七・一五職場集会に突入するよう指導し、特に仙台分会については、七月一四日、東北支部・仙台分会合同執行委員会を開催のうえ、仙台分会が企画していた勤務時間にくい込む職場集会の実施につき具体的指導を行ったものである。
3 仙台分会の本件職場集会に向けての活動
仙台分会執行部は全気象中央本部の方針をうけ、同年六月一四日から同月一九日にかけて本件職場集会開催の体制確立のためと称し、いわゆる一票投票を実施し、全分会組合員中の約六六パーセントの賛同を得たが、その後も引続き組合員に対し、より強力に参加を訴えるため、同月二四日仙台分会内に原告浅野の呼びかけで青年行動隊を組織して、もっぱら本件職場集会に向けての情宣活動に当らせるなどしたほか、本件職場集会貫徹に向けて、職場集会参加署名運動(七月五日から同月八日まで)、七・一五職場集会成功のための総決起集会の開催(七月九日)、国公共闘の統一リボン着用、各種ビラの配布、職場オルグ等の活動を展開した。
4 本件職場集会の実施状況について
本件職場集会は、昭和四六年七月一五日、庁舎管理者の許可なく仙台管区気象台一号庁舎正面玄関前広場を使用し、午前八時五分ころから同四八分ころまで継続して勤務時間に喰い込み、少なくとも当日午前八時三〇分から勤務することを要する組合員二〇名以上を集めて開催されたものであるが、その経過は次のとおりである。
午前八時五分ころ、右組合員らが参集したので、まず内池仙台分会執行委員が演壇に立って開会宣言を行い、本件職場集会が開始された。
以後同人の司会の下、角野東北支部副委員長の演説や、日本共産党来賓のあいさつがあり、続いて午前八時一一分原告浅野が演壇に立ち上り数分間にわたり当局の態度に対する批判や、本件職場集会の成功をたたえるなどの演説を行った。その後、浜田東北支部執行委員などによる全気象中央執行委員長のメッセージ朗読や、激励電報の披露、青年行動隊の結成及びその活動報告などがあったのに続いて、午前八時三〇分ころから同四五分ころまで原告牛来が演壇に立ち上り、東北支部書記長としての立場において本件職場集会の経過報告を行ったり、集会状況等の現認のため、集会場付近に姿を見せた管理者らに対し、自ら音頭を取って集会参加組合員に「不当な干渉するな。」「課長は帰れ。」などのシュプレヒコールを行わせるなどした。
折から原告浅野は、前記のとおり集会場に現認のため赴いたことに関し、被告仙台管区気象台長に対し抗議を行って本件集会場に戻ったところであったが、原告牛来東北支部書記長の右経過報告の後、直ちに演壇に立って、同台長に対し右抗議に及んだこと、及び抗議の内容結果などについて報告を行った。続いて浜田東北支部執行委員が演壇に立ち、要求書を読み上げ終わりに「団結がんばろう。」などと音頭を取って参加組合員によるシュプレヒコールを行わせ、最後に原告浅野が午前八時四八分ころ再び演壇に立って閉会の宣言を行い、ようやく本件職場集会の幕を閉じた。
5 処分理由たる原告らの行為と適条について
(一) 原告牛来
右に述べたとおり、原告牛来は、当日午前八時三〇分を始業時とする勤務日であったのに、前記のとおり無断職場を放棄して本件職場集会に参加したばかりか、かねてから本件職場集会を企画し、かつ、仙台分会組合員に対し参加を呼びかけていた東北支部書記長としての立場において長時間にわたる演説を行ったり、あるいは自ら音頭を取って集会参加組合員をしてシュプレヒコールをさせるなどして、本件職場集会に積極的に参加するとともに、これが継続推進を指揮指導した。右行為は国公法九八条二項前段後段に違反し、また、同法九九条に違反する。
さらに、同原告が勤務時間中であるのに無断欠務した点において同法一〇一条一項の職務専念義務に違反する。
(二) 原告浅野
右に述べたとおり、原告浅野は、当日は勤務を要しない日であったものの、仙台分会が行った職場集会に関し、右集会の統括責任者として、管理者の会場使用禁止を無視し、無許可のまま庁舎正面玄関前を用いて本件職場集会を企画、開催、継続し、かつ、かねてから本件職場集会参加を呼びかけていた仙台分会執行部の最高責任者としての立場において、前記演説を行うなどして本件職場集会に積極的に参加するとともに、これが継続推進を指揮指導した。右行為は国公法九八条二項前段後段に違反する。
また、同原告が無許可のまま、本件職場集会を開催した点において「運輸省庁舎の管理に関する規則(昭和四〇年一〇月一三日運輸省訓令第二三号)。」六条に違反し、右は国公法九九条に違反する。
(三) よって、被告仙台管区気象台長は、国公法八二条一号により原告らに対し本件懲戒処分をしたものである。
6 本件懲戒処分の適法性について
(一) 以上のとおり、本件職場集会が国公法九八条二項前段に違反する争議行為であって、同職場集会に参加して主たる役割を果たした原告らの行為が同条項後段に違反することは明白である。そして、その処分も国公法八二条所定の懲戒処分のうち最も軽い戒告を選択してなされたものであり、原告らの非違行為の内容等からして合理的範囲内のものというべきであり、処分権の濫用が問題とされる余地は全くないといわなければならない。
よって、本件懲戒処分は、法令の適用及び量定において適切かつ正当であるというべきである。
(二) 原告らの主張に対する反論
(1) 国公法九八条二項の合憲性
国公法九八条二項の規定が憲法二八条に違反するものでないことについては、最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決(全農林警職法事件)以来、判例が一貫して明らかにしているところであり、国公法九八条二項に違反する本件職場集会は違法なものである。
(2) 本件職場集会の国公法九八条二項の該当性
イ 原告らは、最高裁昭和四一年一〇月二六日大法廷判決(全逓東京中郵事件)及び同昭和四四年四月二日大法廷判決(全司法仙台事件)を根拠として同条により禁止された争議行為を違法性の強い争議行為に限られるべきであるから本件職場集会は国公法九八条二項に禁止する争議行為に該当しないと主張する。
しかしながら、右各判決が採用した、いわゆる限定解釈が採り得ないものであることも、前記最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決の明確に指摘するところであって、右主張が失当であることは明らかである。
ロ なお、本件職場集会が午前八時五分ころから勤務時間内である同四八分ころまで就業命令等を無視して行われたものであるにもかかわらず、原告らは、七月一五日当日の出勤状況は通常よりも良好であり、仙台管区気象台長が毎朝九時一〇分ころ出勤して不参扱を受けておらず、業務阻害に当たってないことからして本件職場集会によって業務阻害発生のおそれは全くなかった旨主張する。しかしながら、職員の勤務時間(始業)は、法令等によって午前八時三〇分からと規定され、各省庁においてそれぞれの都合で独自に変更することは許されない。そして、勤務時間内において、公務員として負担する職務専念義務に違反し労務供給義務の提供を拒否したこと自体、たとえそれが出勤簿整理時間内に行われたものであるとしても、必然的に業務を阻害する行為ということができるから、現に業務の正常な運営を阻害したかどうかを問うまでもなく、国公法九八条二項の所定の争議行為に該当することは明らかである。
ハ また、原告らは、原告らの行為は全気象の大会決定と指令に基づき実施した団体行動であり、争議権の正当な行使であって、国公法九八条二項に該当せず、懲戒処分を課し得ない旨主張する。
しかし、本件職場集会が国公法九八条二項で禁止された争議行為に該当して違法であることは前述したとおりであり、したがって、原告らがたとえ組合の指令に基づいて行動したものとしても、違法な争議行為に参加し、勤務を要する時間帯において無許可で職務を離脱し、公務員の職務上の義務である法令遵守義務及び職務専念義務に違反した以上は、その指揮監督権を有する任命権者において、国公法八二条により懲戒処分をなし得べきものであることは明らかであり、また、公務員が争議中であるからといって、右職務上の義務を免れ得ないことは、最高裁昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決(神戸税関事件)の判示するところであって、原告らの右主張は何ら根拠のないものといわなければならない。
(3) 本件職場集会の当時、公務員に対する争議行為の制約については、いわゆる限定合憲論に立脚する最高裁昭和四一年一〇月二六日大法廷判決、最高裁昭和四四年四月二日大法廷判決などの判例下にあったものであり、原告らは、本件職場集会に参加するに当たり、右判例に従って行動すれば違法でないと確信していたものであって、このような原告らを行為後になされた最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決に基づいて処分することは判例によって形成された社会観念に反するものである旨主張し、右主張は処分権濫用を含むものと解される。しかし、原告らの引用する最高裁判所判決は、公労法一七条一項あるいは地方公務員法三七条一項に違反する争議行為について、(一率に)刑事制裁を課すことの許否を論じたものであって、それらの行為に関する民事責任、懲戒責任の存否を判断の対象としたものではないばかりでなく、それら判決の判文上は、刑事責任を問い得ない場合においても、民事責任、懲戒責任の追求は可能であることが示唆されているともみられるのであるから、原告らの右主張は失当というべきである(東京高裁昭和五八年一〇月五日全林野中央事件判決)。
四 抗弁に対する認否
1 1項は認める。
2 2項は認める。
3 3項中、「同月二四日仙台分会内に原告浅野の呼びかけで青年行動隊を組織して、もっぱら本件職場集会に向けての情宣活動に当らせ」との点を否認し、その余は認める。青年行動隊は組合員が自発的に結成したものである。
4 4項中、「少くとも当日午前八時三〇分から勤務することを要する組合員二〇名以上集めて」との点を否認し、その余は認める。
5 5項は争う。
6 6項は争う。
7 本件懲戒処分の違法性について
(一) 国公法九八条二項の違憲無効
本件懲戒処分は、原告らの行為が国公法九八条二項に違反することを根拠としてなされた。
しかし、同条項は、憲法二八条に違反し無効である。憲法二八条は、公務員たると一般私企業たるとを問わず、すべての勤労者に対し、団体行動権(争議権)を保障している。しかるに国公法九八条二項は、国家公務員の争議行為等を全面かつ一律に禁止し、争議権を全面的に否認している。したがって、同条項が憲法二八条に違反することは明白である。このような違憲無効な法律に違反することを根拠としてなされた本件懲戒処分は、違法である。
(二) 国公法九八条二項不該当
かりに、国公法九八条二項が違憲でないとしても、憲法の基本的人権としての争議権尊重の精神にかんがみ、同条項で禁止される争議行為等の範囲は、極めて強度の違法性をもつもの(例えば、一般国民の生命、身体に危険をもたらすもの)のみに限定して解釈さるべきである。
最高裁昭和四一年一〇月二六日大法廷判決(全逓東京中郵事件)及び同昭和四四年四月二日大法廷判決(全司法仙台事件)は、刑事事件のみならず、民事、行政の、およそ労働権にかかわるすべての事件について、前記法理を承認し、先例としての役割を果すことになる。
なお、最高裁昭和四八年五月二五日大法廷判決(全農林警職法事件)、同昭和五二年五月四日大法廷判決(全逓名古屋中郵事件)は、官公労の労働者の争議権についての見解を一八〇度変え、前記各判決を変更したが、全く違法不当である。
判例の不遡及的変更の原則にしたがい、本件においては、全逓東京中郵事件及び全司法仙台事件の各判例にしたがうべきであり、これを変更した前記各判決は先例とならない。
ところで、本件懲戒処分の対象となった原告らの行為は、いずれも原告らが所属する全気象の大会決定と指令にもとづき、整然と実施した団体行動であり、その目的、手段、態様、影響、その他いかなる点からみても、争議権の正当な行使であって、国公法九八条二項において禁止の対象とされている行為に該当しない。
したがって、同条項違反を理由とする本件懲戒処分は、違法である。
次に、国公法九八条二項の争議行為とは、労調法七条の争議行為と同義であり、具体的に業務の正常な運営を阻害するものを言う。
本件では、保安要員を配置し、具体的に業務に支障を与えたことはない。したがって、国公法九八条二項の争議行為に該らない。
(三) 原告の行為は労働組合の団体行動であって、懲戒処分を課しえない。
かりに、原告らの行為が国公法九八条二項に該当するとしても、原告らの行為は、あくまで団体の集団的・組織的行動の一環である労働組合の大会決定と指令にもとづく団体行動であって、通常の職務秩序から離脱している。それゆえ、原告らの行為を個々バラバラの個々人の行為として評価してはならず、通常の職務秩序における個人の違法行為に対する責任追及である懲戒処分を課すことは許されない。
したがって、これを誤った本件懲戒処分は違法である。
五 再抗弁
1 本件懲戒処分は不当労働行為である。
本件懲戒処分は、次のとおり原告らの所属する全気象の運営に対する支配介入であると同時に、当然の組合活動を行なったことを理由とする不利益取扱いであり、憲法二八条国公法一〇八条の七に違反する不当労働行為であって違法である。
(一) 本件処分の内容
昭和四六年一〇月二日、気象庁当局は、全気象の七・一五職場集会に対し懲戒処分一三名(中央執行委員長、本庁支部執行委員長、東管支部執行委員長、気研支部執行委員長、清瀬支部執行委員長、北海道支部執行委員長、同札幌分会長、東北支部書記長、同仙台分会長、関西支部執行委員長、同大阪分会長、西部支部執行委員長、同福岡分会長)、訓告二三名(北海道支部四名、東北支部二名、本庁支部一名、関西支部四名、西部支部六名、気研支部二名、清瀬支部二名、函館支部一名、中央執行委員一名)、厳重注意二一名・分会の参加者全員、という大量不当処分を発令してきた。
(二) 本件懲戒処分は、前項で明らかなように、当時の組合幹部を狙いうちにした不当処分である。
労働組合の運営やその方針は、ひとり、幹部の独断で行なわれるものでなく、民主的な討論と手続きを経て行なわれるのが基本である。全気象も既に述べたごとく、七・一五職場集会の方針決定に当って、この原則を踏まえ、民主的な大衆討議と、中央大会および中央委員会という最高決議機関の決定に基づき、しかも、一人ひとりの組合員の賛否を問う一票投票にかけて、この闘争を決定したものである。
職場集会当日の任務分担、配置についても、それぞれの執行機関や闘争委員会等の決定によったものであり、これらの決定に従って任務を遂行することが幹部の義務であって、それによって、労働組合本来の機能が全うされるのである。いいかえれば、組合幹部は、これらの決定を忠実に履行したに過ぎないのである。
しかるに、処分者が「警告や自重をうながしたにもかかわらず」とか、「集会で主たる役割を果した」とかいう理由で懲戒処分を行ったことは、労働組合本来のあり方を否定し、その存在をも否定しようとすることに他ならない。
これは将に、組合組織の破壊を狙った不当労働行為である。
2 懲戒権の濫用
かりに原告らの行為に対し、懲戒を課すこと自体が許されるとしても、本件懲戒処分は、次のとおり懲戒権の合理的な限界を逸脱し、懲戒権を濫用したものであって違法である。
(一) 本件職場集会にむけての全気象労働者の要求については、その要求は切実であり、客観的にみても極めて正当なものであった。
賃金要求の平均一万八〇〇〇円以上の引き上げは、組合員の苦しい生活実態の反映したものであり、公労協や民間との賃金格差が初任給で「一万円の差が出ている」現実からすれば、当然の要求なのである。
また、四月勧告・四月実施の要求についても、代償措置としての人事院勧告制度が社会正義として正常に機能することを求めたものであって、法的正義という観点からしても極めて当然のことを求めたにすぎない。
さらに、昇格頭打ちの解消の要求にしても、頭打ちの結果、定期昇給の時期が遅れるなど現実的な不利益をもたらすものであって、その要求は切実なものであった。
その他、第二次定員削減、予報業務の系列化に反対する要求は、地域住民の要求に応え、気象業務の内容低下を防ごうとする積極的で正当なものである。
また、僻地改善の要求、宿舎改善の要求はいずれも気象労働者の厳しい生活実態を原点にしたものであり、当局としても当然耳を傾けるべき内容のものである。
以上のように、本件職場集会にむけての要求の切実性・正当性を考えるならば、本件集会が組合の団体行動として正当な組合活動であることは当然であり、本件処分は許されないというべきである。
(二) 本件職場集会は、気象業務にいささかの支障をも来たさないように充分な保安要員を配置するなどの配慮のもとに、整然と行われ、現実にも、気象業務にいささかの支障をもきたさなかったのである。
そのうえ職場集会が行われた極く短時間、保安要員を残して職員が職場から離れたという点を除けば、職場秩序に何の影響もなく、通常の職場の状態と異なるところはなかったのである。
そればかりか、職場集会であるから、各職場に近い場所で、通常より多くの職員が待機しており、異常気象・地象時下の指示も行われていた現実からすれば、通常の場合以上に(自主的にではあるが)「職場秩序」が確保されていたとみることができる。
(三) 本件処分は、本件職場集会に参加した全気象の組合員のうち、東北支部書記長及び仙台分会の分会長に対してなされている。このような処分は、まず第一に職場集会が行われた分会の中で、処分の対象とされた分会と、対象とされなかった分会が何の理由もなく選別された点において平等原則に違反するとともに、第二に、同じ支部・分会内においても、支部書記長、分会長だけが他の組合員と差別されて(幹部責任追及は成立しない)処分された点においても平等原則に違反する処分で違法である。
幹部責任追及が何の理由もなく、不当であるが、それにもかかわらず、幹部であるが故に行われた本件処分は、この点においても、目的の違法、動機の不正を更に強くうかがわせるものである。
(四) 本件職場集会によって、当局が何らの損害を―業務上も、職場秩序の点でも―うけなかったし、またうけるおそれもなかったことは前に述べたとおりである。それに反して、懲戒処分をうけた原告らは有形・無形の甚大な損害を蒙り、とくに昇給延伸によって生涯つきまとう不利益を蒙っている。
本件処分によって、原告牛来は四月一日の定期昇給を七月一日に、原告浅野は一月一日を四月一日にそれぞれ昇給延伸させられた。
原告浅野供述によれば、処分時から現在まで、昇給延伸による本俸分の実損は約二〇万円になるのである。よって、比例原則に反する。
以上の各事実からみると、本件では懲戒権の濫用であることが明らかである。
六 再抗弁に対する認否
1 不当労働行為の主張は争う。
原告らは、本件懲戒処分が組合幹部をねらい打ちにして組合組織の破壊ないし組合弾圧を意図した不当労働行為であると主張する。
しかしながら、不当労働行為制度上の保護は、正当な組合活動についてだけなされるものであるところ、本件職場集会の実施が憲法二八条に基づく正当な団体行動であるといえないことは、前述のところから明らかである。そして、本件懲戒処分は既に述べたとおり原告らの行為が国公法九八条二項に違反し、同法八二条所定の懲戒事由に該当することを理由になされたものであって、原告らが主張するように団結破壊ないし組合弾圧を意図してなされたものでないことは明らかである。
なお、再抗弁1の(一)の事実は認める。
2 懲戒権濫用の主張は争う。
原告らは「本件懲戒処分は懲戒権の合理的な限界を逸脱し懲戒権を濫用したものであって違法である」と主張する。
しかしながら、本件懲戒処分は、懲戒権者の裁量の範囲を逸脱したものではない。
(1) 公務員の懲戒処分は、行政組織内の秩序維持のため職務義務違反者に対して課せられる法的責任であり、速やかにこれを課すことによってその責任を明らかにしその将来を戒しめるものである。したがって、右処分にあっては、その組織体の秩序を維持するため、また、義務違反者の将来のために、当該義務違反者に通暁した懲戒権者において最も良く、懲戒処分の要否及び処分の内容、程度の選択をなし得るものというべきである。懲戒権者は、義務違反行為の軽重、懲戒処分の違反者及び他の職員に及ぼす影響、効果等の諸般の要素を考慮し、その広い裁量により、処分の要否、処分の内容、程度を選択するのでなければ妥当な結果が得られない。懲戒権者に広い裁量権があることは最高裁判所の判例においても定着した見解である(前記最高裁昭和五二年一二月二〇日判決参照)。
(2) 本件懲戒処分は、前述のとおり原告らに国公法八二条所定の懲戒事由に該当する非違行為があったことを理由としてなされたものであって、かつ、その処分も懲戒処分のうちで最も軽い戒告を選択してなされたものであり、本件職場集会の態様、影響及び原告らの非違行為の内容等からして合理的範囲内のものというべきであり、処分権の濫用が問題とされる余地は全くないといわなければならない。
なお、原告ら主張のように本件職場集会の目的が正当であるとの評価を受け得るものであったとしても、その実現のために国公法の禁止する争議行為に訴えて要求を貫徹させるようにすることは許されるものではなく、本件職場集会に先立ち当局が警告を発しているにもかかわらず、これを無視して敢えて強行したことは本件職場集会の違法性が決して軽微なものでないことを示すものといえるのである。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりである。
理由
一 本件懲戒処分の取消し請求について
1 請求原因
請求原因1、2の各事実(当事者、本件懲戒処分の存在)は当事者間に争いがない。
2 抗弁
(一) 抗弁1ないし4の各事実(本件職場集会に至る経過とその開催の態様)は、次の点を除いて、すべて当事者間に争いがない。
(証拠略)によれば、被告主張のように、原告浅野の呼びかけで仙台分会の中に青年行動隊が組織され、情宣活動を行ったことが、(証拠略)によれば、本件職場集会には、当日午前八時三〇分から勤務を要する組合員が少くとも二〇名参加したこと、当日原告牛来は午前八時三〇分から勤務を要する日であり、原告浅野は勤務を要しない日であったことが、それぞれ認められる。
(二) 原告牛来の行為
右の各事実によれば、原告牛来は東北支部書記長として、本件職場集会の企画に参画し、組合員に参加を呼びかけ、自らこれに積極的に参加し、かつ、これの進行を指導したことが肯認される。
原告牛来の右行為は国公法九八条二項前段後段、一〇一条一項に違反する。
(三) 原告浅野の行為
右の各事実によれば、原告浅野は、当日は勤務を要しない日であったが、本件職場集会の開催責任者として組合員に右集会への参加を呼びかけ、当日は、無許可で、仙台管区気象台庁舎正面玄関前を使用して本件職場集会を開催し、その推進を指導したことが肯認される。
原告浅野の右行為は国公法九八条二項前段後段、運輸省庁舎管理規則六条に違反する。
(四) 原告らは国公法九八条二項は憲法二八条に違反する旨主張する。
国公法九八条二項は国家公務員の争議行為等を禁止している。これは、勤労者を含めた国民全体の利益のため勤務するという公務員の地位の特殊性と職務の公共性からくる制約であるところ、法は右制約に見合う措置として、次のような制度的な保障をしている。
即ち、勤務条件の中心的地位を占める給与については、その根本基準が法定され(国公法六二条)、職員の給与は法律で定める給与準則に基づいて支給される(国公法六三条)こととなっており、また、その他の勤務条件も法定主義(国公法二八条)をとっている。法定主義は、国会、地方議会の統制のもとにおかれ、国民を代表する機関によってすべて定められる。加えて、不利益処分の申立て制度(国公法八九ないし九二条の二)、勤務条件に関する措置要求制度(国公法八六ないし八八条)、給与勧告制度(国公法二八条二項)、勤務条件に関する勧告制度(国公法二八条一項)、法令の制定改廃に関する意見の申出制度(国公法二三条)などの人事行政機関が行なうこととされる代償制度が存する。
このような公務員制度の実定法の構造からみると、国公法九八条二項は憲法二八条に違反するものではない(最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決刑集二七巻四号五四七頁参照)。
よって、右主張は失当である。
(五) 原告らは、国公法九八条二項の争議行為は違法性の強いものに限定すべき旨主張する。
しかしながら、違法性の強弱の区別ははなはだ曖昧であるから、かかる限定的解釈をとることはできない。
もっとも、その行為が、具体的事情のもとにおいて、法秩序全体の精神からみて許容される程度のものであるときは、違法性が阻却され、民事制裁を課することのできないことは、いうまでもない。
よって、右主張は失当である。
(六) 原告らは、本件職場集会が具体的な業務遂行に支障を与えていないから、国公法九八条二項の争議行為に該らない旨主張する。
しかしながら、前示のとおり、本件職場集会には、当日午前八時三〇分から勤務を要する職員が少くとも二〇名含まれていたのであり、右職員らが職務専念義務に違反し、労務の提供を拒否していること自体、すでに業務の阻害があったということができる。保安要員を配置したとしても、右業務の阻害がなかったとはいえない。
なお、本件職場集会が仙台管区気象台の出勤簿整理時間内に終了したとしても、出勤簿整理時間の設定は、職員の勤務時間を変更し、当該時間内の勤務を免除させるものでなく、職員は右時間内も当然に当局の指示のもとに労務提供の義務を負うものであるから、業務阻害性を阻却するものではない。
(七) 原告らは、本件職場集会が全気象の大会決定と指定に基づいて実施された団体行動であって、その目的、手段、方法からみて正当なものであって、国公法九八条二項に該当しない旨主張するが、前示の本件職場集会の態様からみて、右主張はとうてい採用できない。
なお、原告らが援用する全逓東京中郵事件、都教組事件、全司法仙台事件についての最高裁の各判決は、刑事的制裁について判示したものであって、民事的制裁については先例とはならない。
(八) 原告らは、本件職場集会は労働組合の団体行動であるから、これに参加した者に対し、個人責任としての懲戒処分をなし得ない旨主張するが、個人的行為の側面があることは否定し得ず、個人的責任を問うことができると解すべきであるから、右主張は失当である。
3 再抗弁
(一) 原告らは、本件懲戒処分が不当労働行為である旨主張する。
全気象が行った七・一五職場集会に対し気象庁当局が原告主張(再抗弁1の(一))の処分をしたことは当事者間に争いがない。
しかしながら、前示のとおり、勤務時間にくい込む本件職場集会は国公法九八条二項に違反し、違法なものであるから、これを企画したり、遂行したりした者に対し、最少限度の制裁(戒告)を課すことは、法秩序全体の精神からみて許容されるところであり、組合幹部に対してなしたとの一事をもって、本件懲戒処分が組合の組織の破壊を狙った不当労働行為ということはできない。
よって右主張は失当である。
(二) 原告らは、本件懲戒処分には、懲戒権の合理的限界を逸脱し、懲戒権濫用の違法がある旨主張する。
(1) 原告らが本件職場集会において求めた賃金平均一万八〇〇〇円以上の引き上げ等の諸要求が極めて当然なものであるとしても、原告らは法律に定められた措置要求等の手続により、右要求の実現をはかるべきであって、国公法の禁止する方法をとるべきではない。
なお、原告浅野本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、昭和四四年、昭和四五年、昭和四六年の人事院の給与勧告は勧告どおり実施されたことが認められる。
(2) 原告らは、本件職場集会が正常な業務の遂行に支障を来たしていなかった旨主張するが、右主張が失当であることは前示のとおりである。
(3) 次に、原告らは、本件懲戒処分が原告主張(再抗弁2の(三))のように平等原則に違反する旨主張するが、原告主張の右事実をもって、直ちに、本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えたものということはできない。
(4) 原告らは、本件懲戒処分がその主張(再抗弁2の(四))のように比例原則に違反する旨主張する。
しかしながら、本件職場集会が業務上の支障を生じたことは前示のとおりであるから、本件懲戒処分により、原告らがその主張の如く昇給延伸による不利益を受けたとしても、懲戒権者の裁量権の範囲を超えているものとはいえない。
よって、懲戒権濫用の主張は失当である。
4 以上の次第により、本件懲戒処分は正当になされたことが肯認されるから、これらの取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がない。
二 本件判定の取消し請求について
1 請求原因4の事実(本件判定の存在)は当事者間に争いがない。
2 原告らは本件判定が迅速になされなかった違法がある旨主張する。
しかしながら、右事由は本件判定を取り消す違法事由とはならない。即ち、原告らは、審査請求後相当期間経過しても判定がなされないときは、判定をまつまでもなく、直接本件懲戒処分の取消しを求めて裁判所に出訴できるからである(行訴法八条二項)。
原告ら主張のその余の違法事由は、本件懲戒処分に関するものであって、本件判定固有のかしとはいえない。
よって、原告らの右主張は失当である。
3 そうすると、原告らの本件判定の取消しを求める請求は理由がない。
三 結論
よって、原告らの各請求を棄却し、行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項前段を適用して、文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤貞二 裁判官 戸舘正憲 裁判官 浦木厚利)